茨城県北芸術祭で自分の鑑賞スタイルと公式グッズを想う

先月訪れた茨城県北芸術祭、前回に続いて今回は日鉱記念館と御岩神社に行ってきた時のお話です。

茨城県北芸術祭で山と海を同時に体感する旅へ
10月23日にKENPOKU ART 2016 茨城県北芸術祭(以下、茨城県北芸術祭)に行ってまいりました。2016年は瀬戸内国際芸術祭、あいちトリエンナーレ、岡山芸術交流、さいたま...

うのしまヴィラまで運んでくれたタクシーの運転手さんには帰りもお世話になり、日立駅まで送ってくれました。
帰りすがら、「御岩神社は行かないの?タクシーだとすごいお金かかるからオススメはできないけど、いいところだから良かったら行ってみなよ」と勧めてくれました。
御岩神社やその手前の日鉱記念館も芸術祭の会場。無料のシャトルバスもあるので、いそいそと向かうことにしました。

やっぱり急坂な日鉱記念館

日立駅からバスに乗り15分ほど。うねうねした山道を登っていくと日鉱記念館にたどり着きます。

日鉱記念館
日鉱記念館は、「未来と自然の調和」をコンセプトに、日立鉱山跡地に建てられました。 開館以降、学校など教育機関の研修や社会見学をはじめとして多くの皆様にご来館を...
敷地内ですらこの坂道。

元々炭鉱だったとは思えないほど、きれいに整備されています。ウイスキーの製造工場みたい。

何となく余市を思い出す感じ。

今回はあまり時間がなかったので、本館の中の展示と作品を見て回りました。

松田平田設計が手がけたモダンな建築です。周りの風景の自然と溶け込むシンプルさ。

日鉱記念館 | 松田平田設計
総合設計事務所[松田平田設計]は、1931年の開設以来、高機能ビル、公共施設、大規模集客施設など、誠実公正な設計監理を実施。また都市計画、免震・耐震・リニューア...
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赤沢鉱山(日立鉱山の前身)の売買契約書

展示品は日立鉱山にまつわる様々な資料が展示されています。これは赤沢鉱山の売買契約書。

この印紙の数すごいですね。今でも私生活で使う契約書やら何やらがめんどくさくて悩んでいるのに、当時から印紙、割印文化だったんだなと窺えます。
どこで何をやるにも印鑑が必要で、本当これどうにかならんのかなとうんざりしている身に染みました(結婚にまつわる手続きの多さに閉口しているので、やややさぐれ気味にお送りします)。

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当時の鉱山の様子。今の静かな森と同じ場所とは思えないほど、切り開かれていたようです。

”自分ごと”になる芸術鑑賞

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活気があった鉱山のようで、当時の生活の様子が写真で展示されていました。

以前軍艦島を訪れた際も、当時の暮らしぶりを写真で見て一人で泣きそうになってました。何気にこういう展示に弱いのです。今は遠い昔、もう戻れない、活気があった頃の暮らし…泣ける…

こういう記念館を訪れる際は「展示のどの部分で、内容が”自分ごと”になるのか」を念頭に見ると面白いと思います。ぐっと気持ちが入ってしまう部分はどこか、ってことですね。
退職した元企業戦士であれば、日立グループの発展ぶりと働き盛りだった頃の自分を重ね合わせて見るかもしれませんし、建設業に従事されている方は模擬坑道を見ると、手作業で掘り進めた坑道に圧倒されるかもしれません。
仕事に限らずとも、庭で大根を干すお母さんが写った写真で泣けたり、部活動の写真で微笑ましい気持ちになったり。

「文脈」が大事とされている昨今ですが、自分は、作品や展示物のバックグラウンドを知って楽しむことにあまり興味がなくて、鑑賞する際はどこまで行っても自分の心の有り様にしか興味がないのです。
逆に、作品を見ることでイメージがどんどん膨らみ、新しい着想が引き出されていく作品が、自分にとって「良い」作品です。「自分ごと」になる作品や展示物を追い求めて生きています。
ここら辺、自分の鑑賞スタイルに関わるのでまたいつかどこかで書くとします。前提知識との付き合い方って本当に難しい。

Playable Sculpture(遊べる彫刻)/Tuksina PIPITKUL

展示のいちばん最後に作品が設置されていました。


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岩を砕くドリルの一部を組み替えられるようにし、昆虫の頭のように変形できる仕組みになっているそう。

「遊べる彫刻」との謳い文句だったのですが、ガラスケースに入れて展示してありました。係員さんによると、部品が破損してしまったようでこのような対応になったとのこと。んー…見てるだけでは何とも伝わりにくかったので、触れないのはやっぱり残念です。

御岩神社でまずは天井画を見る

気を取り直してシャトルバスで御岩神社へ。この時点で時刻は16時近く。帰りのシャトルバスもすぐ出てしまうとのことで、帰りは路線バスを使用することにしました。

この時点でだいぶ陽が落ちかけています。

日本でも有数のパワースポットなだけに、ひっきりなしに参拝者が訪れています。若い女性も多かったかな。

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関東といえど秋は深し、陽も落ち始めているので山の中はひんやりしています。綺麗に手入れされた木立が美しいですね。

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御岩神社といえばこちら。境内にそそり立つ三本杉。樹齢500年と言われ、県指定の天然記念物になっています。

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立派な樹です。バスの中で調べた情報では、かなりスピリチュアルなスポットとしても人気なようでした。
あまりにもパワーが強くて、宇宙から光の柱として見えるとかなんとか。逆に安っぽく映るから、そういう話なら知らなきゃ良かったな…(まだやさぐれ中)。

気を取り直して作品を見に行きましょう。斉神社の天井画です。

斉神社の内部。上を見上げると…
御岩山雲龍図/岡村美紀

おお!立派な龍が!
御岩山の上空を飛ぶ龍を描いたもの。公式サイトには「それはこれまでの天井画に描かれることのなかった、上空からの視点です。」とあるのですが、天井画ってどういう素材を描いていたんだろう…ちょっと含みを待たせた説明なので気になりました。

拝殿で風の姿を見る

次の作品を見に歩を進めます。拝殿の方へ向かう道すがら…

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わ!左手方向になんか見えてきた!

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杜の蜃気楼/森山茜

森山茜の作品です。木々の間で、キラキラした半透明のビニールが揺らめいています。風が吹くとシャラシャラと音がして、風の姿が可視化されたようでした。

シンプルな直方体で、龍や神社にまつわるモチーフを積極的に形にしたわけではなさそうです。その分見る人の想像する隙間を残しているのでしょう。

芸術祭の存在を知らないで参拝に来た方も多そうで、「え!なにあのヒラヒラ!」とびっくりしている方も見受けられました。人気のスポットを展示場所にするとこういうことも起こりえますね。

素朴な疑問なのですが、作品の設置場所ってどうやって決めるんでしょうね。
日鉱記念館然り御岩神社然り、美術館とは違う場所に展示しているので、場所の強みを生かせるのでしょう。
ただ、芸術祭に来た「観光客」を、「観光」という側面から主催者の思惑で「来て欲しい場所」に、芸術を使って誘導しているような印象も受けました。芸術祭として場所へのポリシーがないと、芸術祭巡りと称した観光地巡りになってしまいそう。

とはいえ、こういう機会でもないと御岩神社に来ることはなかったのも事実。パワースポットとして名高いところってどうしても足が遠のいてしまうので。

そんなことを考えながらぶらぶら歩いていると、杉林に囲まれていました。きれいに剪定されていますねー…

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…こういう、丁寧に手入れされた空間ってちょっと怖くなります。パワースポット的なありがたみではなくて、威圧されるというか。

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神聖な空間を維持するための人間の規律って、だるだるゆるゆる人間な私には圧が強くてちょっと怖いです。
特にここは人気の神社。一見して豊かな自然環境に見えますが、かなり細部まで人間が目を光らせることで、多くの参拝者を受け止めているんだなと感じてしまいました。

ちなみに帰りの路線バスが来るまで1時間。誰もいない野ざらしのバス停で一人待ち付けました。めちゃくちゃ怖かったです。寒いし…

公式グッズはこれでよかった…?

最後に芸術祭の公式グッズを買ってみました。

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クリアファイル

と言っても購入したのはこのクリアファイルのみ…こんな風に、芸術祭のビジュアルイメージを展開して、トートバッグやマスキングテープやバッチにしているものばかりでした。

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このデザイン自体は素敵だと思うのですが、どうにもワンパターンというか…
地元の商品に芸術祭のロゴが付けられたお土産があったのですが、これもどんな商品なのか、なぜ芸術祭で売られるべき商品なのかがわからず、いまいち心に響いてきませんでした。

どうせやるなら、あいちトリエンナーレや瀬戸内国際芸術祭みたいに、特産品をデザイナーがリデザインして地域の魅力を積極的に発信するとか、アーティストのオリジナルグッズを作るとか…

リデザイン | 瀬戸内国際芸術祭 2016
瀬戸内国際芸術祭は、美しい瀬戸内海の島々を舞台に3年に一度開催される現代アートの祭典です。

札幌国際芸術祭2014でも、商品のラインナップが個性的で、ルイ・ヴィトンとのコラボレーションもしていて、他の芸術祭との差別化を積極的に図っていました。

公式グッズ | 札幌国際芸術祭 2014
グッズの販売は終了しました。 x LOUIS VUITTON x moretrees SCARF SOLD OUT x LOUIS VUITTON x moretrees SCARF SOLD OUT x LOUIS VUITTON x moretrees SCARF SOLD OUT...

ミュージアムグッズ同様に公式グッズも、芸術祭のヴィジョンを表現する手段であるし、広告宣伝の役割だってあると思うのに。積極的に買いたいと思える商品がなくて、ちょっと残念でした。

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ちなみに、今回は公式ガイドブックを買ってから臨みました。あまり中身は読めなかったのですが…
最新情報や作品情報は公式ホームページを確認するのが良いとして、観光ガイドブックとしての情報が豊富でした。

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お食事情報もずらり。この海鮮丼食べたかったな…

茨城県北芸術祭レポートはこれにて終了。
次回はLIXILギャラリーのブックレットを大人買いした時のお話など書こうと思います。また次回!

茨城県北芸術祭で山と海を同時に体感する旅へ

10月23日にKENPOKU ART 2016 茨城県北芸術祭(以下、茨城県北芸術祭)に行ってまいりました。

KENPOKU ART 2016 茨城県北芸術祭
海か、山か、芸術か?2016年秋、茨城県北6市町の豊かな自然と町を舞台にした国際的な芸術祭が誕生します。

2016年は瀬戸内国際芸術祭、あいちトリエンナーレ、岡山芸術交流、さいたまトリエンナーレ、みちのおく芸術祭 山形ビエンナーレなど、国内で多くの芸術祭が開催された年でもありました。
で、その中からなぜ茨城県北芸術祭に行ったかというと、テーマに「最先端の科学技術との協働」との表記があったからです。

茨城県内の歴史を振り返ってみると、この地域では江戸の末期から炭鉱が開かれ、日立周辺は銅鉱山、工業・産業が発展し、明治以後の日本の近代化を支えた地域であった。一方、北茨城の五浦はアジアの美学の重要性を唱えた岡倉天心や横山大観らが居を定め、日本近代美術の発展と深い関わりを持ったことで知られている。
近年では、アーティストのクリストが、常陸太田にアンブレラ・プロジェクトを実現し、先進的なアートの発信が話題になった。県内には筑波大学や研究所等が所在し、「科学万博−つくば’85」の開催地になった経緯もあり、茨城県は日本のアートと科学技術発展の拠点にもなっている。
そこでこの芸術祭は、茨城の持つこのような先進性に注目し、自然との対話と同時に、最先端の科学技術との協働にも注目をしていきたい。現代において、美術はもはや絵画と彫刻からなるだけではない。科学技術を使ったメディアアート、さらに次世代の変革を担う生物学を援用したアートも登場している。こうしたアートの新しい可能性を紹介することも茨城らしいこととなるだろう。
開催概要|KENPOKU ART 2016 茨城県北芸術祭

ここ数日、研究者のアウトリーチとしてのアート活動の可能性について考える日々が続いているので、少しヒントになればと思ったのがきっかけです。
この開催概要には「科学技術を使ったメディアアート」という記述もあって、アーティストが科学技術にどういうスタンスで向き合っているのかを知ることもできるかなと思いました。


ここら辺を予備知識で入れておくといいのかも。

しかし、この目論見はあっさり崩れることになります…

茨城、なまら遠い問題

そうです。茨城までの距離を舐めきっていたのです。
東京駅を9時のバスで発ち、水戸に着いたのが11時半、そこからホテルに荷物を預けて、電車に乗って日立市に着いたのが13時近く…あれ、朝に出たはずなのに午後しか芸術祭周れないなんて、茨城遠くない?

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…距離だけ見たら旭川の手前に行くようなもんじゃんか!!そりゃ遠いわ!!
と、帰宅後自分に総ツッコミ入れました。

まぁあの、言い訳をしますと、出発直前までバタバタしていたり体調を崩しがちだったこともあって、今回の旅行はほとんど事前に計画を立てていませんでした。
過去に芸術祭を見に行った時は、かなり綿密な計画を練っていました。瀬戸内や山形など「地方型」と呼ばれる芸術祭では、交通インフラに気を配っておくことがいかに重要か、これまでの経験で身に染みてわかっていたのです。
なのに今回は、「まぁ言うても茨城だしー関東だしー行けば何とかなるっしょ!」と、まともに事前準備もせず出発してしまったわけです。関東の距離感舐めてましたごめんなさい。

しかもですね、日立市に行ったはいいものの、ひとつひとつの作品の設置場所が離れてて、結構遠いんですよ…
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左上の日鉱記念館や御岩神社までは無料の循環バスが出ていたのですが、右上のうのしまヴィラまでは車で15分ですが巡回バスはありませんでした。あえなくタクシーです。
こんな風に、一つの市内でも効率よくたくさん回るのはちょっと検討しておくべきでした。日立市の他にも作品設置エリアはあるので、車無し、泊数短めの人で複数のエリアを跨いで回りたい人は、全部の作品を見るのは厳しいかな…
見たい作品を絞るなど事前に計画していくことをお勧めしますよ!

日立駅の美しさ、想像以上

いきなりネガティブに愚痴っちゃいましたが、見てきたものは素晴らしかったので気を取り直していきましょう。
今回の芸術祭では宿泊するホテル(水戸市)に近い日立市の作品を中心に見て回ることにしました。
日立市といえば、日立駅、というくらい駅に行けるのを楽しみにしておりました。それではどうぞご覧ください。
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じゃーん!じゃじゃーん!きーれーい!
駅の壁がほぼガラス張りになっていて、海側の眺望が最高なのです。

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ガラス張りの飛び出している部分はレストラン。

この駅のデザイン監修は、日立市出身の世界的な建築家、妹島和世。SANNAとして手掛けた、金沢21世紀美術館の設計が有名ですかね。

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茨城県北芸術祭のテーマカラー、青と緑のフラッグも風になびいて爽やかです。既に晩秋の札幌から出てきただけに、この景色を見てしまうと何だかバカンスに来たような気分になりました。

日立市にはいくつか作品があるのですが、今回の芸術祭を象徴する作品のひとつといえばこちらでしょう!

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回廊の中で:この場所のための4つの虹 ー KENPOKU ART 2016のために 2016/ダニエル・ビュレン

ガラス窓に虹色のカッティングシートが貼られ、虹色の美しい空間が生まれています。
お昼頃に行ったからか、陽射しは両側から柔らかく差し込み、深く濃い色合いが充満していました。

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いつまでも居られるわ…

朝や夕方に行けばまた違った光に満たされるのでしょう。
シンプルですが場の特性をうまく生かした作品でした。

ノアの箱舟がバスだったなら

日立駅近くのシビックセンターにも作品がいくつか展示してあります。
私が観れたのは外に展示してあったテア・パキマーの作品。

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ノアのバス/テア・マキパー

芸術祭に訪れた人や地元の人で賑わっていました。特に子供達に大人気のよう。

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植物が絡みつくようにバスに生えています。文明が荒廃し、自然の中に還っていくとこんな姿になるのかしら。

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バスの中を覗いてみると、あら亀さん。
このバスの中で、ウサギ、ロシアンリクガメ、モルモット、レースポーリッシュ(鳥)が暮らしているのです。だから子供たちが喜んで覗いていたのですね。

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「ノアのバス」というタイトルが付けられているので、このバスはつまりノアの箱舟なのでしょう。
バス停には「山行き」の文字、そして作品が設置されているここは海沿い。山に向かうノアの箱舟は、震災を思い起こしてしまいます。作家の震災へのリサーチの結果、こういう作品が生まれたのですね。

人間が乗っていない、山行きのバスの中に住まう動物たち。いや、避難した後、人間が住めなくなった街に置き去りにされたバスなのかも…と色々想像してしまう作品でした。

作品として生き物を飼育する際にケアはどうなっているんだろう…と思ってしまうのですが、こちらの作品では「かみね動物フレンズ」という、かつて園で働いていた方が毎日ケアを行っているそう。
あいちトリエンナーレ2016でちょっと悲しい出来事があったので、ホッとしました。

ヤドカリの家は誰のもの?

続いてはタクシーで、うのしまヴィラに向かいます。
以前からどうしても観たかった作品がそこに展示されていました。

やどかりに「やど」をわたしてみる ーBorderー/AKI INOMATA

3Dプリンタで製作した殻に、実際にヤドカリに引っ越してもらうプロジェクト。AKI INOMATAの代表作です。

貝殻の上には世界の様々な土地の姿が。上の写真は、これはモロッコの都市、ワルザザートにあるアイット=ペン=ハドゥの集落です。

実際に殻を背負ったヤドカリ。元気に水槽の中で動き回っていました。
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全部で9都市の作品がありました。素敵だった…。

ヤドカリは、強い個体によって強制的に殻を交換させられることもあり、殻は自分の身を守る術でありながら、同時に権力や抗えないものの象徴でもあると感じました。

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展示場所となったうのしまヴィラも、震災で津波の甚大な被害にあい、2014年に営業再開が叶った温泉旅館です。

うのしまヴィラ(鵜の島温泉旅館)|茨城県 日立市太田尻海岸のカフェ感覚で泊まれる宿
茨城県日立市大田尻海岸の「鵜の島温泉旅館」が2014年4月に「うのしまヴィラ」としてリニューアルオープンします。

大切な場所を失くし去らねばならなかった人、戻ってきた人、それも叶わなかった人…あの震災で、それぞれに殻を手放さざるをえなかった人たちがいて、それぞれの今があります。

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うのしまヴィラの目の前、太田尻海岸。プライベートビーチ感すごい。

AKI INOMATAの本作品は、世界が抱える移民や難民の問題やその苦難を彷彿としますが、それはこの場所で生きている人たちの現実そのものではないでしょうか。
「ここに展示する意味」を強く感じました。

暮らす人の実感から湧き出るテーマを

旅ではなるべく地元の人と話すようにしており、今回はうのしまヴィラに向かう途中で、タクシーの運転手さんとたくさんお話しできました。
うのしまヴィラまでは車で15分ほど。その道中は細かい坂道の連続で、石狩平野でのんびり暮らす自分にはかなりのアップダウンに思えました。

私「ぎゃー!また坂!」
運転手「こんなの大したことないんだって!山側に行ったらもっとすごいんだから!」

という会話の連続でした。

私「住宅も斜面に沿うように建ってる…平らな地面がほとんどないんですね」
運転手「この辺は海と山との距離がすごい近いんだよ。平野部も海沿いに少しだけ。ここは海と山の街なんだよね」
私(…そうか!だからこの芸術祭のテーマが『海か?山か?芸術か?』なんだ!)

と、車内で神の啓示を受けた人みたいに閃きました。

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引用元 デジタル標高地形図(東日本太平洋沿岸)

こちら、日立市の標高地形図。青く表記された平野部は海岸線に沿ったごく一部にしかなく、いきなり標高が高くなっていることがわかります。

引用元 標高図/札幌市

ちなみにこちらは札幌周辺。日立市の標高図と色の使い方が逆でわかりにくいのですが、太平洋から札幌市街地は石狩平野が広がっています。

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日立駅のバス停から海を撮影したもの。日立駅自体も切り開いた山の斜面に建っていて、どう見ても平地が少ない。坂と共に生きている街でした。
何の影響かわかりませんが私は海へ続く坂道が大好物なので、この風景大好きです。数時間の滞在じゃもったいなかったな。

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私は海エリアの日立市を選んで鑑賞に来たのですが、海にいながらにして十分に山を感じられる場所でした。
こんな風に、ここに暮らす人の口から自然に出た言葉の中に芸術祭のテーマが含まれていると、その地域の本質を掴んでいるなぁと感じられて嬉しくなります。
今回のテーマにあるように、「海か?山か?」と海と山を同列に扱える環境なんだなと実感できました。それだけでここに来た甲斐がありました。

できれば作品を通じて、「山と海が近いことで、地域の生活スタイルや文化にどのような影響を与えたのか」が見られたら面白かった。でもこれは個人的な興味としてとっておこうかな。

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長文になりましたが、今回はここまで!
次回は海エリアの中でも山深くまで行ってきたので、その模様をレポートします。
あー写真見返していたら、またすぐに旅に行きたくなってしまう…