茨城県北芸術祭で山と海を同時に体感する旅へ

10月23日にKENPOKU ART 2016 茨城県北芸術祭(以下、茨城県北芸術祭)に行ってまいりました。

KENPOKU ART 2016 茨城県北芸術祭
海か、山か、芸術か?2016年秋、茨城県北6市町の豊かな自然と町を舞台にした国際的な芸術祭が誕生します。

2016年は瀬戸内国際芸術祭、あいちトリエンナーレ、岡山芸術交流、さいたまトリエンナーレ、みちのおく芸術祭 山形ビエンナーレなど、国内で多くの芸術祭が開催された年でもありました。
で、その中からなぜ茨城県北芸術祭に行ったかというと、テーマに「最先端の科学技術との協働」との表記があったからです。

茨城県内の歴史を振り返ってみると、この地域では江戸の末期から炭鉱が開かれ、日立周辺は銅鉱山、工業・産業が発展し、明治以後の日本の近代化を支えた地域であった。一方、北茨城の五浦はアジアの美学の重要性を唱えた岡倉天心や横山大観らが居を定め、日本近代美術の発展と深い関わりを持ったことで知られている。
近年では、アーティストのクリストが、常陸太田にアンブレラ・プロジェクトを実現し、先進的なアートの発信が話題になった。県内には筑波大学や研究所等が所在し、「科学万博−つくば’85」の開催地になった経緯もあり、茨城県は日本のアートと科学技術発展の拠点にもなっている。
そこでこの芸術祭は、茨城の持つこのような先進性に注目し、自然との対話と同時に、最先端の科学技術との協働にも注目をしていきたい。現代において、美術はもはや絵画と彫刻からなるだけではない。科学技術を使ったメディアアート、さらに次世代の変革を担う生物学を援用したアートも登場している。こうしたアートの新しい可能性を紹介することも茨城らしいこととなるだろう。
開催概要|KENPOKU ART 2016 茨城県北芸術祭

ここ数日、研究者のアウトリーチとしてのアート活動の可能性について考える日々が続いているので、少しヒントになればと思ったのがきっかけです。
この開催概要には「科学技術を使ったメディアアート」という記述もあって、アーティストが科学技術にどういうスタンスで向き合っているのかを知ることもできるかなと思いました。


ここら辺を予備知識で入れておくといいのかも。

しかし、この目論見はあっさり崩れることになります…

茨城、なまら遠い問題

そうです。茨城までの距離を舐めきっていたのです。
東京駅を9時のバスで発ち、水戸に着いたのが11時半、そこからホテルに荷物を預けて、電車に乗って日立市に着いたのが13時近く…あれ、朝に出たはずなのに午後しか芸術祭周れないなんて、茨城遠くない?

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…距離だけ見たら旭川の手前に行くようなもんじゃんか!!そりゃ遠いわ!!
と、帰宅後自分に総ツッコミ入れました。

まぁあの、言い訳をしますと、出発直前までバタバタしていたり体調を崩しがちだったこともあって、今回の旅行はほとんど事前に計画を立てていませんでした。
過去に芸術祭を見に行った時は、かなり綿密な計画を練っていました。瀬戸内や山形など「地方型」と呼ばれる芸術祭では、交通インフラに気を配っておくことがいかに重要か、これまでの経験で身に染みてわかっていたのです。
なのに今回は、「まぁ言うても茨城だしー関東だしー行けば何とかなるっしょ!」と、まともに事前準備もせず出発してしまったわけです。関東の距離感舐めてましたごめんなさい。

しかもですね、日立市に行ったはいいものの、ひとつひとつの作品の設置場所が離れてて、結構遠いんですよ…
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左上の日鉱記念館や御岩神社までは無料の循環バスが出ていたのですが、右上のうのしまヴィラまでは車で15分ですが巡回バスはありませんでした。あえなくタクシーです。
こんな風に、一つの市内でも効率よくたくさん回るのはちょっと検討しておくべきでした。日立市の他にも作品設置エリアはあるので、車無し、泊数短めの人で複数のエリアを跨いで回りたい人は、全部の作品を見るのは厳しいかな…
見たい作品を絞るなど事前に計画していくことをお勧めしますよ!

日立駅の美しさ、想像以上

いきなりネガティブに愚痴っちゃいましたが、見てきたものは素晴らしかったので気を取り直していきましょう。
今回の芸術祭では宿泊するホテル(水戸市)に近い日立市の作品を中心に見て回ることにしました。
日立市といえば、日立駅、というくらい駅に行けるのを楽しみにしておりました。それではどうぞご覧ください。
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じゃーん!じゃじゃーん!きーれーい!
駅の壁がほぼガラス張りになっていて、海側の眺望が最高なのです。

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ガラス張りの飛び出している部分はレストラン。

この駅のデザイン監修は、日立市出身の世界的な建築家、妹島和世。SANNAとして手掛けた、金沢21世紀美術館の設計が有名ですかね。

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茨城県北芸術祭のテーマカラー、青と緑のフラッグも風になびいて爽やかです。既に晩秋の札幌から出てきただけに、この景色を見てしまうと何だかバカンスに来たような気分になりました。

日立市にはいくつか作品があるのですが、今回の芸術祭を象徴する作品のひとつといえばこちらでしょう!

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回廊の中で:この場所のための4つの虹 ー KENPOKU ART 2016のために 2016/ダニエル・ビュレン

ガラス窓に虹色のカッティングシートが貼られ、虹色の美しい空間が生まれています。
お昼頃に行ったからか、陽射しは両側から柔らかく差し込み、深く濃い色合いが充満していました。

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いつまでも居られるわ…

朝や夕方に行けばまた違った光に満たされるのでしょう。
シンプルですが場の特性をうまく生かした作品でした。

ノアの箱舟がバスだったなら

日立駅近くのシビックセンターにも作品がいくつか展示してあります。
私が観れたのは外に展示してあったテア・パキマーの作品。

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ノアのバス/テア・マキパー

芸術祭に訪れた人や地元の人で賑わっていました。特に子供達に大人気のよう。

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植物が絡みつくようにバスに生えています。文明が荒廃し、自然の中に還っていくとこんな姿になるのかしら。

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バスの中を覗いてみると、あら亀さん。
このバスの中で、ウサギ、ロシアンリクガメ、モルモット、レースポーリッシュ(鳥)が暮らしているのです。だから子供たちが喜んで覗いていたのですね。

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「ノアのバス」というタイトルが付けられているので、このバスはつまりノアの箱舟なのでしょう。
バス停には「山行き」の文字、そして作品が設置されているここは海沿い。山に向かうノアの箱舟は、震災を思い起こしてしまいます。作家の震災へのリサーチの結果、こういう作品が生まれたのですね。

人間が乗っていない、山行きのバスの中に住まう動物たち。いや、避難した後、人間が住めなくなった街に置き去りにされたバスなのかも…と色々想像してしまう作品でした。

作品として生き物を飼育する際にケアはどうなっているんだろう…と思ってしまうのですが、こちらの作品では「かみね動物フレンズ」という、かつて園で働いていた方が毎日ケアを行っているそう。
あいちトリエンナーレ2016でちょっと悲しい出来事があったので、ホッとしました。

ヤドカリの家は誰のもの?

続いてはタクシーで、うのしまヴィラに向かいます。
以前からどうしても観たかった作品がそこに展示されていました。

やどかりに「やど」をわたしてみる ーBorderー/AKI INOMATA

3Dプリンタで製作した殻に、実際にヤドカリに引っ越してもらうプロジェクト。AKI INOMATAの代表作です。

貝殻の上には世界の様々な土地の姿が。上の写真は、これはモロッコの都市、ワルザザートにあるアイット=ペン=ハドゥの集落です。

実際に殻を背負ったヤドカリ。元気に水槽の中で動き回っていました。
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全部で9都市の作品がありました。素敵だった…。

ヤドカリは、強い個体によって強制的に殻を交換させられることもあり、殻は自分の身を守る術でありながら、同時に権力や抗えないものの象徴でもあると感じました。

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展示場所となったうのしまヴィラも、震災で津波の甚大な被害にあい、2014年に営業再開が叶った温泉旅館です。

うのしまヴィラ(鵜の島温泉旅館)|茨城県 日立市太田尻海岸のカフェ感覚で泊まれる宿
茨城県日立市大田尻海岸の「鵜の島温泉旅館」が2014年4月に「うのしまヴィラ」としてリニューアルオープンします。

大切な場所を失くし去らねばならなかった人、戻ってきた人、それも叶わなかった人…あの震災で、それぞれに殻を手放さざるをえなかった人たちがいて、それぞれの今があります。

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うのしまヴィラの目の前、太田尻海岸。プライベートビーチ感すごい。

AKI INOMATAの本作品は、世界が抱える移民や難民の問題やその苦難を彷彿としますが、それはこの場所で生きている人たちの現実そのものではないでしょうか。
「ここに展示する意味」を強く感じました。

暮らす人の実感から湧き出るテーマを

旅ではなるべく地元の人と話すようにしており、今回はうのしまヴィラに向かう途中で、タクシーの運転手さんとたくさんお話しできました。
うのしまヴィラまでは車で15分ほど。その道中は細かい坂道の連続で、石狩平野でのんびり暮らす自分にはかなりのアップダウンに思えました。

私「ぎゃー!また坂!」
運転手「こんなの大したことないんだって!山側に行ったらもっとすごいんだから!」

という会話の連続でした。

私「住宅も斜面に沿うように建ってる…平らな地面がほとんどないんですね」
運転手「この辺は海と山との距離がすごい近いんだよ。平野部も海沿いに少しだけ。ここは海と山の街なんだよね」
私(…そうか!だからこの芸術祭のテーマが『海か?山か?芸術か?』なんだ!)

と、車内で神の啓示を受けた人みたいに閃きました。

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引用元 デジタル標高地形図(東日本太平洋沿岸)

こちら、日立市の標高地形図。青く表記された平野部は海岸線に沿ったごく一部にしかなく、いきなり標高が高くなっていることがわかります。

引用元 標高図/札幌市

ちなみにこちらは札幌周辺。日立市の標高図と色の使い方が逆でわかりにくいのですが、太平洋から札幌市街地は石狩平野が広がっています。

Processed with Rookie Cam

日立駅のバス停から海を撮影したもの。日立駅自体も切り開いた山の斜面に建っていて、どう見ても平地が少ない。坂と共に生きている街でした。
何の影響かわかりませんが私は海へ続く坂道が大好物なので、この風景大好きです。数時間の滞在じゃもったいなかったな。

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私は海エリアの日立市を選んで鑑賞に来たのですが、海にいながらにして十分に山を感じられる場所でした。
こんな風に、ここに暮らす人の口から自然に出た言葉の中に芸術祭のテーマが含まれていると、その地域の本質を掴んでいるなぁと感じられて嬉しくなります。
今回のテーマにあるように、「海か?山か?」と海と山を同列に扱える環境なんだなと実感できました。それだけでここに来た甲斐がありました。

できれば作品を通じて、「山と海が近いことで、地域の生活スタイルや文化にどのような影響を与えたのか」が見られたら面白かった。でもこれは個人的な興味としてとっておこうかな。

Processed with Rookie Cam

長文になりましたが、今回はここまで!
次回は海エリアの中でも山深くまで行ってきたので、その模様をレポートします。
あー写真見返していたら、またすぐに旅に行きたくなってしまう…

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